医療機関のカルテ保存義務について

医療機関で発生した書類は医師法や医療法によって書類に保存期間が定められています。紛失すると罰則が科せられてしまうため、非常に注意が必要な書類といえます。

法律上、保存期間が過ぎた書類については破棄することも可能となりますが、万が一医療事故などで損害賠償された場合に、医療行為が適切であったか判断する際に証拠となるのがカルテや書類となります。

したがって、損害賠償請求消滅時効まで出来る限り保存しておくことが望ましいです。

また、閉院となる場合などは10年間保管など各医院で決めた年数を保管した後に破棄しているケースが多いです。

医療機関として保管義務の対象となる文書

国が法律上作成保管を義務付けている書類は以下のとおりです。

参照元:「「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について」

・医師法(昭和23 年法律第201 号)第24 条に規定されている診療録
・歯科医師法(昭和23 年法律第202 号)第23 条に規定されている診療録
・保健師助産師看護師法(昭和23 年法律203 号)第42 条に規定されている助産録
・医療法(昭和23 年法律第205 号)第46 条第2 項に規定されている財産目録、同法第51 条の2 第1 項に規定されている事業報告書等、監事の監査報告書及び定款又は寄附行為、同条第2 項に規定されている書類及び公認会計士等の監査報告書並びに同法第54 条の7 において読み替えて準用する会社法(平成17 年法律第86 号)第684 条第1項に規定されている社会医療法人債原簿及び同法第731 条第2 項に規定されている議事録
・医療法(昭和23 年法律第205 号)第21 条、第22 条及び第22 条の2 に規定されている診療に関する諸記録及び同法第22 条及び第22 条の2 に規定されている病院の管理及び運営に関する諸記録
・診療放射線技師法(昭和26 年法律第226 号)第28 条に規定されている照射録
・歯科技工士法(昭和30 年法律第168 号)第19 条に規定されている指示書
・薬剤師法(昭和35 年法律第146 号)第27 条に規定されている調剤済みの処方せん
・薬剤師法第28 条に規定されている調剤録
・外国医師等が行う臨床修練に係る医師法第17 条等の特例等に関する法律(昭和62 年法律第29 号)第11 条に規定されている診療録
・救急救命士法(平成3 年法律第36 号)第46 条に規定されている救急救命処置録
・医療法施行規則(昭和23 年厚生省令第50 号)第30 条の23 第1 項及び第2 項に規定されている帳簿
・保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32 年厚生省令第15 号)第9 条に規定されている診療録等
・保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32 年厚生省令第16 号)第6 条に規定されている調剤済みの処方せん及び調剤録
・臨床検査技師等に関する法律施行規則(昭和33 年厚生省令第24 号)第12 条の3 に規定されている書類
・歯科衛生士法施行規則(平成元年厚生省令第46 号)第18 条に規定されている歯科衛生士の業務記録
・高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付の取扱い及び担当に関する基準(昭和58 年厚生省告示第14 号)第9 条に規定されている診療録等
・高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付の取扱い及び担当に関する基準第28 条に規定されている調剤済みの処方せん及び調剤録

上記のように対象が多岐にわたり非常に多くの文書に規定があります。

次からこれらカルテの保存期間から効率的に保管する方法、そして廃棄方法についてご覧ください。

カルテの保管期間は5年?

カルテの保管期間は「保険医療機関及び保険医療担当規則第9条」によると診察日からでなく診療完了日から5年となります。

そのため治療が継続している場合は5年以上であっても保管し続ける必要があります。

またカルテ以外の帳簿及び書類(領収書やX線写真など)に関しては3年の保管を義務付けています。

ただ、冒頭で伝えた通り損害賠償請求消滅時効のことなどを考慮して20年保管するなど極力長期間保管することが望ましいです。

また、日本医師会の「医師の職業倫理指針(第3版)」では以下の通り、カルテの電子化が進む中カルテの保管期間は永久保存を推奨しております。

「記録保存形式の主流が紙媒体から電子媒体に移行しつつある状況において、診療諸記録の保存期間は診療録の保存期間と同じになるべきである。わが国では法律上5年という期間が定められているが、電子媒体化に伴い永久保存とするべきである。」
参照元:「医師の職業倫理指針【第3版】

また、閉院する場合はカルテの保管義務がケースによって異なります。

管理者死亡による閉院をした場合、カルテの保管義務は遺族には生じません。厚生労働省からは保健所などの公的な機関での保管が適当とされています。

ただし、注意点として遺族に医療事故による損害賠償義務を相続する場合には、万が一損害賠償請求された場合不利に働く可能性があるため、遺族は一定の期間保管するのがよいです。

別の医療機関にカルテが継承し閉院する場合、医療機関の管理者が責任を負うこととなります。事業継承したカルテ引継ぎ先の医療機関が管理者となり、カルテの保管義務責任を負うこととなります。

また、個人情報保護法第23条5項2号において「合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合」は第三者に該当しないという適用除外項目があるため、「事業継承の場合は顧客の同意がなくても個人情報の引き継ぎが可能」となります。

ただし、注意点として元の利用範囲を超えての個人情報の利用については顧客の同意が必要となるため、引継ぎ元の個人情報利用には注意し取り扱いましょう

カルテを継承しない閉院の場合、閉院した病院・医療機関の管理者に5年間(レントゲンフィルムは3年間)の保管義務がありますので注意しましょう。

カルテの保管方法について

先述で記載した通り、医師の職業倫理指針【第3版】で以下のように記載されているように、カルテを効率的に保管する上でも電子カルテの導入を留意する必要があります。

「記録保存形式の主流が紙媒体から電子媒体に移行しつつある状況において、診療諸記録の保存期間は診療録の保存期間と同じになるべきである。わが国では法律上5年という期間が定められているが、電子媒体化に伴い永久保存とするべきである。」

ただし、まだ多くの医院が紙媒体で保管管理しているもの事実としてあるので紙媒体、電子カルテの保管方法についてお伝えします。

まず紙媒体については医院内で保管するケースが多いです。

ただし、懸念点としてはヒューマンエラーによる漏洩または、保管スペースの不足といった点が挙げられます。

それらを解消したい場合は外部の保管サービスを利用することをおすすめします。個人情報が明記されている書類なのでセキュリティ対策及び補償内容が充実したサービスを利用しましょう。

一方で、日本医師会はカルテの永久保存を推奨しているため、紙媒体であってもスキャナーで取り込み保存し管理していくのが良いでしょう。

ただ、スキャナーで取り込む際のルールが定められているので注意が必要です。

以下がスキャナーで電子化した際のルールとなります「参照元:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン【第5.1版】」

「スキャナー等で電子化した場合、どのように精密な技術を用いても、元の紙等の媒体の記録と同等にはならない。したがって、一旦紙等の媒体で運用された情報をスキャナー等で電子化することは慎重に行う必要がある。(中略)電子化した上で、元の媒体も保存することは真正性・保存性の確保の観点から極めて有効であり、可能であれば外部への保存も含めて検討されるべきである。」

つまり、カルテをスキャナーで取り込んだとしても、全く同じものにはならないためスキャナー後も紙カルテは保存しておくことを推奨してます。

加えて改ざん防止対策を施す必要があります。

具体的には「スキャナーによる読み取りの際の責任を明確にするため、作業責任者(実施者又は情報)が電子署名法に適合した電子署名・タイムスタンプを遅滞なく行うこと」となります。

そして電子カルテの3原則が存在し「真正性」「見読性」「保存性」を担保していない電子カルテは保険医療機関として利用できないこととなっております。

そのためしっかりと電子カルテの3原則を理解した上で、厚生労働省の定めたガイドラインに沿って保存する必要があります。

電子カルテの3原則とは

(1) 保存義務のある情報の真正性が確保されていること。
○ 故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
○ 作成の責任の所在を明確にすること。
(2) 保存義務のある情報の見読性が確保されていること。
○ 情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
○ 情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。
(3) 保存義務のある情報の保存性が確保されていること。
○ 法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること。
「参照元:診療録等の電子媒体による保存に関する解説書」

また、電子カルテの具体的な指針については「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第5版)」に記載されており様々なルールが存在します。

・外部事業者に委託する場合、過去に安全管理上の問題を起こしていない事業者であることを確認した上で、適切な能力を持つ外部監査人の監査を受けること
・汎用性が高く可視化するソフトウェアに困らない形式(JPEG・PDFなど)で保存すること
・実施計画書を作ること、など

このように厚生労働省の通知やガイドラインに定められている要求事項を精査した上で、担当者が自ら長期間保管運用していくのは容易なことではありません。

そのため外部サービスを利用しているケースも多く、昨今ではコスト面などでも導入しやすいクラウド型電子カルテを導入している医院も多いです。

カルテの処分方法について

院内で処分するならシュレッダー処理が必須

カルテは一般的な書類と異なり、個人情報が掲載されているため機密文書として処理する必要があります。

そのため復元不可能な状態にしてから処分する必要があるため、医院内で処分する場合はシュレッダー処理してから処分することになります。

しかし、現実的に考えて膨大な量を1枚1枚処理していくと非常に時間がかかります。また、紛失による情報漏洩リスクを考えると機密文書処分の専門業者に依頼することを推奨します。

業者に委託するならセキュリティレベルの確認が必須

ただし、業者によってセキュリティレベルがまちまちなので事前にきちんと調べた上で選定することが重要です。

最低でも以下内容は確認しておきましょう。

①ISO27001やプライバシーマーク認証の有無について

ISO27001は情報セキュリティマネジメントシステムのことで、プライバシーマークは個人情報の取り扱いが適切であるかを証明する制度です。

取得には第三者機関による厳しい審査と定期的な更新審査があります。

取得業者はセキュリティを担保できるようなマネジメント体制が整っているので、認証を取得しているかどうか確認してみましょう。

②補償制度の有無について

万が一の事故に備えて、損害賠償保険が活用できるのであれば安心です。賠償上限金額や適用条件などについて契約書に記載があるか確認しましょう。

③証明書発行の有無について

専門業者の多くは機密処理後に「機密情報抹消証明書」を発行しています。

証明書の発行は根拠ある処理方法で確実に抹消されたという証明になり、社内で処理記録として残しておくこともできます。発行してくれる業者を選ぶようにしましょう。

④トラックのセキュリティについて

GPSの設置、荷台ロックなど回収トラックに設備投資しているかどうか、自社専用車であるかどうかも1つの確認ポイントになります。

出張シュレッダーであれば屋外作業になるので、盗難や盗撮のセキュリティ対策だけでなく、強風や雨に対する備えもリスク回避に重要な確認事項です。

⑤クリアファイルやバインダーなどの異物除去について

クリアファイルやバインダーなどの分別が不要な業者もあれば、異物除去を必須としている業者もあります。

たとえば溶解処理の場合、クリップやバインダー、紐などの分別を求めてくるケースが多くなります。なぜなら、処理工場となる製紙メーカーはトイレットペーパー等の商品の品質維持が最優先だからです。

また、出張シュレッダーの場合もお客様に異物除去してからの箱詰め作業をお願いしているケースが多いです。なぜなら、作業時間を短縮するためです。

お客様にとって、機密文書の異物の除去は大きな作業負担になります。

異物除去不要でお任せができる業者が好ましいと考えます。

以上です。
業者選定については下記記事でも詳しく紹介しております。ぜひ、ご覧ください。

参考記事

これだけは確認したい!業者選びのポイント